ふと気がつくと、娘が小さな指を口元に運び、無意識のうちに爪を噛んでいる姿を目にするようになりました。最初は単なる一時的な癖だろうと軽く考えていたのですが、次第にその頻度は増え、気がつけば深爪になるまで噛み続けるようになってしまったのです。親としては「やめなさい」と注意するのが日常茶飯事になり、その度に娘はビクッと肩を揺らして悲しそうな顔をするようになりました。
爪噛みの原因をネットで調べてみると、真っ先に飛び込んでくるのが「ストレス」という言葉でした。私が仕事と家事の両立でイライラしているのが伝わってしまっているのだろうか、それとも幼稚園でお友達とうまくいっていないのだろうかと、自分を責める日々が始まりました。愛情不足なのかもしれないと悩み、夜中に娘の寝顔を見ながら涙を流したことも一度や二度ではありません。そんな時にママ友から教えてもらったのが、爪に塗ることで苦みを感じさせ、自然と癖を治すサポートをしてくれる「かむピタ」というアイテムでした。
藁にもすがる思いで試してみたいと思った反面、私の心の中には新たな葛藤が生まれました。ただでさえ何らかのストレスを抱えて爪を噛んでいるのかもしれないのに、そこに「苦い」という不快な刺激を与えてしまったら、さらに娘を追い詰めてしまうのではないかと考えたからです。かむピタを塗ることで爪噛みは物理的にやめられるかもしれないけれど、根本的な心のSOSを塞いでしまうことになり、別の形でストレスが爆発してしまうのではないかと恐れていました。
それでも、深爪から血がにじみ、バイ菌が入って腫れてしまった娘の指先を見ていると、このまま放置するわけにはいきません。絆創膏を貼ってもすぐに剥がして噛んでしまうため、物理的なバリアとしては限界がありました。悩み抜いた末、私は「かむピタを使う代わりに、今まで以上に娘とのコミュニケーションの時間を増やそう」と心に決め、ついに使い始める決意をしたのです。
初めてかむピタを塗った日の夜、お風呂上がりの娘の小さな爪に、透明な液体をそっと塗りました。マニキュアのようにツヤツヤになった自分の爪を見て、娘は「お姫様みたい!」と予想外に喜んでくれました。乾くのも早く、成分も安全なものだと調べて知っていたので、その点では安心して使うことができました。そして翌朝、いつものように無意識に指が口元へ行った瞬間、娘は「うわっ!」と顔をしかめ、慌てて口から指を離しました。
その苦そうな顔を見た瞬間、私は胸がチクッと痛み、「ごめんね、辛いよね」と謝りそうになりました。しかし、娘は泣きわめくわけでもなく、「ママ、おてて変な味する」と不思議そうに聞いてきたのです。私はそこで、「お爪さんがね、もう噛まないでって言ってるのかもしれないね。一緒に綺麗な長いお爪を伸ばしてみようか」と優しく伝えました。娘は少し不満そうでしたが、ツヤツヤの爪を眺めながら「うん」と小さく頷いてくれました。
それからの数日間は、娘にとっても私にとっても試練の時でした。テレビを見ている時や眠い時など、無意識に指が口に入っては苦味に驚き、少しイライラした様子を見せることもありました。その度に私は「かむピタはやっぱりストレスになっているのかな」と不安になりましたが、その代わり決めたルール通り、娘がイライラしている時は思い切り抱きしめたり、一緒に絵本を読んだりして気を紛らわせるよう努めました。
一週間が経過する頃には、娘の行動に明らかな変化が現れ始めました。指が口に近づく直前でハッと気づき、自分で手を下ろすようになったのです。そして何より驚いたのは、私自身が「爪を噛まないの!」と怒鳴る回数が劇的に減ったことでした。以前は一日に何度も注意し、その度にお互いに嫌な空気が流れていましたが、かむピタが私の代わりに「噛んじゃダメ」と伝えてくれるため、私はただ見守り、我慢できた時に「すごいね!」と褒める役に回ることができたのです。
実は、娘にとって一番のストレスだったのは、爪を噛むこと自体や苦味ではなく、大好きなママから一日に何度も怒られることだったのかもしれません。私が注意するのをやめ、笑顔で接する時間が増えたことで、娘の表情も以前よりずっと明るくなりました。かむピタの苦味という一時的なストレスを懸念していましたが、結果的に家庭内から「怒る・怒られる」という慢性的なストレスを消し去ってくれたのです。
今では、娘の爪はすっかり綺麗な形を取り戻し、ピンク色の健康的な指先を見るのが私の密かな楽しみになっています。「もう苦いお薬塗らなくても平気だよ!」と誇らしげに見せてくれる娘の笑顔は、何にも代えがたい宝物です。爪噛みという癖の裏には確かに何かのストレスが隠れていたのかもしれませんが、それを乗り越える過程で、私たち親子の絆はより深まったように感じます。
もしあの時、ストレスになるからとかむピタを使うのをためらっていたら、今でも私は眉間に皺を寄せて娘を叱り続け、娘は隠れて爪を噛み続けていたことでしょう。子供の癖に向き合う時は、時に物理的なサポートに頼ることも決して悪くないのだと、身をもって学ぶことができました。これからも娘の小さなSOSを見逃さず、心の変化に寄り添いながら、一緒に成長していきたいと強く思っています。